大判例

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福岡高等裁判所 昭和29年(う)480号・昭29年(う)481号 判決

よつて記録を調査するに、本件公訴事実中、外国人登録法違反の点について、被告人の原審における弁解は、被告人は佐賀県屋外広告物条例違反の被疑者として司法巡査の取調べを受けるに際し、外国人登録証明書の呈示を求められたため、これを呈示しなかつたに過ぎないから、憲法及び刑事訴訟法により保障された黙秘権を行使したに止まるので、その呈示を拒んだことは正当な行為であつて外国人登録法違反の罪責を負う筋合ではないというのである。しかし刑事訴訟法第百九十八条において、被疑者は捜査官憲に対しその利益、不利益を問わず、なにごとをも供述する義務といううちには、その所持する物を提出し、又は呈示する義務をも包含することは明かであるとはいえ、該規定は、他の目的で制定された法令の規定により物の提出又は呈示の義務を負うことまでを排斥するものでないと解すべきであるから在留外国人の公正な管理に資する目的を以て制定された外国人登録法第十三条第二項の規定により外国人は刑事手続とは関係なく、一般的に、その外国人たる地位に基いて、その所持携帯する登録証明書の呈示を求められたときは、これに応ずべき義務を負うものということができる故、かりに他の刑事事件の被疑者として、その捜査の途上において、警察官憲から登録証明書の呈示要求がなされた場合でも、外国人である限り、これに応ずる義務があることを肯定することは、前示刑事訴訟法の法条に牴触するものとはいえないし、また外国人登録証明書の呈示は、これによりその外国人の同一性の識別に関する事柄を知られるに止まり、当該被疑事実に関し自己に不利益な供述というのは当らないから、これが呈示の義務を認めることは、憲法第三十八条第一項に違反するものともいえない。ところで原審第七回公判調書中証人脇山伴次の供述及び同第八回公判調書中証人山田重己の供述の各記載に徴すると佐賀市警察署巡査である脇山、山田の両名は、部外者から佐嘉神社附近でビラを貼つているとの届出があつて同現場に赴いたところ同神社玉垣に十数枚のビラが貼られていて、被告人外一名がその場でビラに糊づけしているのを発見したので、被告人等が佐賀県屋外広告物条例に違反したことを現認したが、その際職務質問したのに対し被告人が金東岩と名乗り、朝鮮人であることが明らかとなつたため、その身分関係等を知る必要からして、外国人登録証明書の呈示を求めたのに対し、被告人は着衣を着替えて来たから携帯していないと称して、これが呈示を拒んだ事実が認められる。それで前記脇山、山田の両司法巡査は、被告人に対し、前示県条例違反の事案捜査の手段としてその登録証明書の呈示を求めたのではなくして、該事案捜査の途上において、たまたま被疑者が朝鮮人であることが判明したので、その居住関係及び身分関係を明確ならしめるという外国人登録法に基く必要からして、すなわち刑事事件の捜査とは別個の職務行物として、その呈示を求めたことは疑を容れる余地がないのであるから、被告人がその呈示を拒んだ所為は同法違反に該当することは勿論であるといわねばならないこと、まさに検察官所論のとおりである。すると原判決が右に説示するところと異り、前記両巡査の被告人に対する登録証明書の呈示要求は外国人登録法に基くものでなく、前示県条例違反の犯罪捜査の手段としてなされたものであつて、違法な行為であると判示し外国人登録法違反の点について、被告人に無罪の言渡をなしたのは、ひつきよう事実の認定を誤つたか、前記法令の解釈適用を誤つたことに帰着し、右の誤りは判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は爾余の論旨について判断するまでもなく、この点において刑事訴訟法第三百九十七条に則り破棄を免れない。

(後略)

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